1月7日 上野広小路亭

「さて、今日は正式のお仕事開始」
「いよいよですね」
「休んでばかりだとだれるから……休みも1週間続くともういいって感じじゃな」
「それでお仕事は」
「ドアを開けるセキュリティーがプッツンして、1時間も外で待たされた」
「あらら、いきなり」
「それで風邪を引いたようじゃ」
「大家さんでも……風邪を引かないってのが常識ですがねえ」
「それで、まあ……同僚にも、もういいよってんで、午前中に解散宣言を出してしまった」
「あら……」
「そういう訳で、上野広小路亭へ」
「やっぱり」
「前座は三遊亭小笑の『桃太郎』。本人の情けない声の調子が、父親の頼りなさに結びついて面白いが……」
「まだまだじゃな」
「わしの台詞を取るな」
「前座はもう一人」
昔昔亭A太郎の『子ほめ』。27日のとマクラから同じ手順。ううん、疑問色々……番頭さんへの台詞も、子供へのほめ言葉も、教えられたのと反対。わざと言っているとしか思えない。師匠の桃太郎ならこれが生きるだろうなあ……しかし……」
「まだそこまで育っていない」
「わしの台詞を取るな」
「はは……さて、プログラムに載っている人ですね。まずは三笑亭朝夢
「イキがいいなあ。『時そば』だが、完全なる東京落語の型。これも27日の里光君と比べられて面白い。とにかく人物がしっかりしているから聞いていて楽しい」
三遊亭遊馬
「『化物使い』、隣でいびきをかく爺さんがいて参った……この爺さん、前座からトリまで全て寝ていたな……すごい人がいるものじゃ」
「それで落語は」
「田舎者がいい出来じゃな。化物の人柄も悪くない」
「化物の人柄ですか」
「使われているうちに、可愛そうと感じさせないとこの噺は面白くない」
「はい。一矢
「おなじみの相撲漫談。甚句を客席が協力して歌った」
三笑亭夢花
「『長短』、この人はどうも物足りないことが多かったが、今日は上々。気の長い人物の描写がいいな」
「続いて三遊亭金遊
「『真田小僧』。面白いが、どうも子供が生意気すぎるかな」
鏡味健二郎
「いつもの曲芸。しかし、駅令で回せなくなりちょっと焦った。いい芸だから、いつまでも元気に頑張ってほしいな」
「はい。仲トリは三遊亭栄馬
「『替り目』、酔っ払いの描写はもちろん大事じゃが、上さんも口うるさいだけでなく、ちょいといい女でなければならない」
「そうなんですか」
「今は本来の落ちまで行かず、旦那が一人でしゃべって落ちになるのが普通じゃ。あまりガラガラした上さんだと、その台詞に説得力がない」
「それで」
「この広小路亭では色々な人が演じるが、それぞれに個性的で面白いぞ。もちろん、今日のもいい人達だなって印象」
「さて、仲入り後の食いつきは神田きらり
「若手じゃが、なかなかいい。昨年11月21日の日本橋亭で、完全版を聞いた『寛永三馬術』より。今日は将軍の様子をメインに描き、三人の失敗はまとめて説明、さて、これからいよいよ間垣平九郎の登場となります……という切れ場。この子はとにかく元気じゃな。大物を予感させる」
「はい。いい子ですか」
「……まあ、過去は問わないように」
「続いて東京丸・京平
「おなじみの漫才。まあ怪しい二人で、それが新婚さんを演じるのじゃから……」
「面白い」
「いや、見るに耐えない」
「あらら」
「まあ、それがおかしい訳ですから……決してけなしているのではございません」
「次は山遊亭金太郎
「『東北弁金明竹』。台詞一つ一つに応対するオッサンが現れて……不思議な寄席になってしまった」
「あらら」
「一応東北弁での台詞が受けて四回もやっちゃったから、後半の意味の取り違いはかなり省略しちゃった。でも良かった」
「はい。三笑亭夢太朗
「『転宅』。例によって夢太朗ワールドを構築したが、今日のはいかにも実際にいそうな人物で面白かったぞ。今日は夢丸一族が実に良かったな」
「はい。松旭斎小天華
「申し訳ないが、この間に夢丸師匠にご挨拶。まあ、いつものネタ。さっき台詞一つ一つに応対していたオッサンが前に来て一々受けていた……おい、貸し切りじゃないぞ」
「さて、トリは三笑亭夢丸
「一昨年の新江戸噺し入選作『かがみ』。初演以来、わしが聞いたのは三度目。今日は一つのドラマを見ているような雰囲気を作ったな。例のオッサンが、一々『うん』『うん』『そうだ』……ってやっていた……おい、貸し切りじゃないぞ」
「さっきも同じことを」
「このオッサンと、最初から最後までいびきを書いていた爺さんがいなければ……素晴らしい席だったと思うな」
「はい、そうすると、全体としては……」
「まあ満足の席でした。夜は引き続き『しのばず寄席』。可女次君と遊史郎師匠に挨拶……本当は二人が出るまで聞いていくのが礼儀じゃが、どうも風邪っぽいので挨拶のみ」
「はい、また今年も寄席通いのスタートでございます」